FILE NO 435 宮崎と周辺の植物
マツカゼソウ Boenninghausenia japonica Nakai
松風草 ミカン科
撮影日 2004.11.27
撮影場所 綾町

  宮崎でも花は10月ぐらいで終わってしまうが、この窪地のマツカゼソウはまだ咲いていた。現にカーブを、曲がったとなりの道脇の傾斜地ではとっくに花は終わっているのに。
 26種ぐらいある日本のミカン科の仲間は殆どが樹木であり、わずかにこのマツカゼソウだけが草本ということで、その希少価値を最大限に評価した結果かどうか分らないが、松風草という素晴らしい 名前をつけてもらっている多年草。
画像1 花は8〜10月、樹林下によく群生して少し青みがかった緑の葉をゆったりとつけた枝葉が僅かな風にも揺れる風景が見られるが、ここでは暖冬のせいもあり時季をはずれて成長した高さ40cmほどのスリムな株に花が咲いていた。場所は木材を搬出した跡地で裸地になっており、まだ競争相手も少なく四方に根を張って群生できそうな環境のようだ。 (臭い)枝葉を千切った時の独特の香りは表現が難しいが、敢えて言えば、いやな匂いと感じるほどきついサロメチールの香りとでも言うしかない。
 松風草(マツカゼソウ)と言うからには、当然に詩歌や俳句あるいは逸話に登場して多くの物語がありそうだが、僅かに持っている手持ちの本を調べてみても出て来ないし、マツカゼソウに関する記述が少ないのにも驚いた。
  マツカゼソウは殆ど無視されているようにも感じられる。
  名前の由来について、牧野図鑑では、「草の姿に趣があるからだろう」とあり、深津正著の植物和名語源新考(八坂書房)では、「マツガエソウ:松枝草が転化したのではないか・・・との根拠をいろいろと述べているし、その中で和名抄にある香草(くさのこう)はマツカゼソウのことだとの白井光太郎博士の説もあるが、今一つ納得できない気がする。少なくとも江戸末期には、マツカゼソウの名前はあったようだ。
画像2 花は基部に葉を持つ枝の先に円錐状集散花序になった両生花がつく。写真茎頂右上はマツカゼソウ独特の雌しべの形で、雌しべは、萼の上の花盤から伸びた3ミリほどの柄の先に緑色の子房がつき、その先に白く細長い0.5ミリほどの柱頭が見える。葉には腺点が見える。花弁は普通は白くて目立たないが、これはかなり紅紫色が強い。 属名の「Boenninghausenia」はドイツ人の名前から来ているらしい。
画像3 4裂した小さな萼片は長楕円形で約1ミリ長、花弁は4個で長さ4ミリほどの長楕円形、雄しべは長短不同で6〜8個、花弁より長い。葉にも、萼にもミカン科らしい香りの元になる腺点があるのが大きな特徴。 画像4 画像2の柱頭は1個に見えるが、緑色の子房は4裂しており、それぞれの分体から出た4個の花柱が合一して1個に見える。子房を爪の先で少しこじ開けて柱頭のまとまりを緩めて、柱頭の付け根が複数に分れている様子を写した。
画像5 果実は4つに分離して斜めに開く。 長さ3mミリほどの卵形で、各分離果には種子が2〜3個入っている。
(撮影:2005.1.15 綾町)
画像6 裂けた果皮の表面にも腺点が見えるが、種子は褐色で長さ1.2ミリほど、中央部のふくらみが少ない楕円形だが形は変化の幅も多く、表面は粒状突起に覆われている。(撮影:2005.1.15 綾町)
画像7 葉は2〜3回3出羽状複葉で、薄く柔らかい鋸歯のない小葉の大きさ、形はかなり変化が多い。小葉は微風にも揺れる。 画像8 葉裏は淡緑白色で、日に透かしてみると多くの腺点が見える。
(画像5、6以外の全部撮影:2005.11.27 綾町)
画像9 小葉の裏面、先は少し凹んでおり、全体に散らばった腺点が見える。 画像10 多少ごつごつした感じの茎は細く円柱状で無毛、真っ直ぐに伸びて上方で分枝する。
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