FILE NO 136 宮崎と周辺の植物
アオダモ(コバノトネリコ)     Fraxinus Lanuginosa Koidz.f. serrata (Nakai) Murata
青ダモ モクセイ科
撮影日 2005.5.14
撮影場所 県北部山地

 宮崎では、アオダモの仲間は、マルバアオダモ、アオダモ、ケアオダモ、ヤマトアオダモがあるが、アオダモとケアオダモは標高1000m以上の山中で見られるようだ。中でアオダモは母種ケアオダモと違って、若枝、花序、葉の下面脈沿い、芽鱗に毛の無い品種をいうが、毛の有無といっても違いは微妙で区別は難しい。
 2つを区別せずにアオダモということが多い。
 アオダモは別に「コバノトネリコ」とも、青タゴとも云われてややこしいが、二年生の枝を切って水中に入れて置くと水がコバルト色になるそうで、アオはその性質から来ているとも云われる。
  トネリコもアオダモもその語源に諸説あり、シロダモやヤチダモという木もあるので、タモにはそれ共通の意味があると思われる。
 アオダモは野球のバットに利用されることで有名だが、粘りのある性質は昔から良く知られており、西洋トネリコ(アッシュという。)も、今は廃れたが英国紳士のステッキに利用されたそうで、縦に割りやすくて狂いのない淡黄白色の材は家具等さまざまな形で利用されていたという。
 マルバアオダモとは葉の鋸歯を見ればその違いはすぐにわかる。
画像1 標高1600mの山中を抜ける登山道の脇、
見上げる高さに花をつけたアオダモ。高さは約5m。
画像では、葉や枝等の毛に多少の違いがあるが、全てアオダモの変化の範囲として整理した。
画像2 雌雄は異株。アオダモの雄花、対生した枝の先に
  円錐花序を伸ばし、多くの白い花をつける。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像3 葉裏や枝にやや毛が目立つものの雄花。
        花序の混み具合が少ないが、変化の幅の範囲内。
   撮影:(2005.05.21 県北部山地)
画像4 まだ未熟なアオダモの雄花アップ。
花弁は4個で、オシベ2個からなる。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像5 ケアオダモに近いものの雄花アップ。
花弁は長さ6ミリほどの線状倒披針形。
撮影:(2005.05.21 県北部山地)
画像6 アオダモの葉の上面。普通対生する葉は奇数羽状複葉で3〜4対、葉縁に低い鋸歯が
整然と並ぶ。撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像7 アオダモの葉の下面。小葉の葉柄は
僅かで脈は隆起して葉の先は尖る。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像8 アオダモの葉下面のアップ。
脈にもほとんど毛が見られない。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像9 葉の上面のアップ。鋸歯は規則正しく
並んで整然としている。葉の長さは4〜7cm。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像10 やや毛が目立つと思われるものの葉柄。鋸歯はかなり外を向いた感じがする。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像11 葉下面、小葉柄にまとまった毛が
見られるが、若い枝では許容の範囲。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像12 多少ケオダモに近いような気もする
葉柄基部。明らかに毛があるが、許容範囲。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像13 葉下面中央脈の短い白毛が目立つが、
若い葉ではあり得る。許容範囲。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像14 ケアオダモに近いと思われるものの
葉の鋸歯。アオダモに比べて粗さが目立つ。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像15 アオダモの葉の鋸歯。鋸歯の先は
外側に向くことが少ないように見える。
撮影:(2003.06.8 県西部山地)
画像16 アオダモの芽鱗(冬芽の鱗片)は
無毛。撮影:(2005.08.27 県北部山地)
画像17 圧着した芽鱗に毛が少し見えるもの。
撮影:(2005.12.30 県北部山地採取標本から)
画像18 アオダモの果実は翼果。
長さは26cmほど。
撮影:(2005.08.27 県北部山地)
画像19 まだ未熟な果実、基部近くの膨らみに
長さ7ミリほどの種子が1個入っている。
撮影:(2005.08.27 県北部山地)
画像20 アオダモの樹幹、直径は8cmほど。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
画像21 花序は今年伸びた枝先に出る。
撮影:(2005.05.14 県北部山地)
アオダモ(コバノトネリコ)余談
  ハンドルネームをアオダモ亭としているが、アオダモ類は日本の北部地域に多く分布しているので、宮崎ではあまり知られていない。
 最近は、シマトネリコ(タイワンシオジ)が公園のみならず個人住宅の庭にも植えられるようになって、トネリコという名前も認識されてきたが、アオダモもトネリコもおよそ日本名らしくないので、確かに覚えにくい。語源にいくつかの説があるが、なんとなく東北地域の生活臭を感じるので、やはり北日本での利用に基づいたネーミングから始まっていると思われる。
  1時期、この仲間の県内分布状況を調査したことがあって、このホームページのハンドルネームにしたわけだが、正直ケアオダモとアオダモの境が分からないし、実のところトネリコもまだ見たことがない。  一度本物のケアオダモを見てアオダモとの区別を整理してみたいと思っている。
 宮崎県の北部、平家伝説のある椎葉で焼畑と民宿を営んでいる椎葉クニ子さんの語りをまとめた「おばあさんの植物図鑑」(斉藤政美文、葦書房、237ページ、1995年)には、椎葉の山で暮らすクニ子さんの驚くような植物の知識が紹介されているが、その中に次のような話も載っている。
  終戦後、野球が流行りだしたら、あっちこっちから商人が買いに来て、ホンドネル(ヤマトアオダモ)のほうが、アオドネル(アオダモ、マルバアオダモ)より高く売れたそうで、クニ子さんはこれらの木をバットノキと呼んでいる。
 事実、椎葉のクニ子さんの民宿に泊まると、遥かに谷の向こうの山々が見える屋敷の横に、悠然と谷を見下ろしているホンドネリの大木を見ることができる。
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